森のグランピング施設を作りたいな!
森林地帯を開拓する時は、『森林法』に注意です!
大規模な森林伐採を伴うリゾート開発での実体験と
現場での注意点を解説するね!
はじめに
森林法第5条は、リゾート施設やグランピングなどの自然を活用した開発を行う際に、設計者が必ず理解しておかなければならない法律です。特に「林地開発」や「地域森林計画(通称:5条森林)」については、現場でのトラブルを未然に防ぐための基本的な知識が求められます。本記事では、設計者が押さえておきたい森林法の基礎知識と、実際の現場で発生したトラブル事例、さらにその対策方法について詳しく解説します。
スポンサーリンク第1章 森林法はここを抑えよう!
新しい法規を学ぶのは、非常に労力が要るものです。森林法に関わる方は、一般的に土地利用を考えるような建築や不動産業界の方が多いと思います。本章では、最低限抑えておきたい用語と現場の所感及び根拠法令を解説します。
重要用語① 地域森林計画(通称:5条森林)
一番抑えておきたい用語の一つが『地域森林計画』です。通称『5条森林』と呼ばれています。その由来は、森林法第5条に規定されていることからその名で呼ばれることが一般的です。
一言で言うと、『行政が指定した森林帯』です。
なるべく残したいから、切る時は言ってねー!って感じの森林です!
民間敷地内の森林を平気で指定してきます!
5条森林って実際にどんな感じの見た目なの?
上記の写真は、実際の5条森林に指定されている敷地を撮影したものです。木々が生い茂っていて、生物がたくさんいます。研究会社にて生物の自然環境調査をしたところ、県指定のレッドリストに登録されている動植物を発見しました。5条森林に指定されている理由も分かる気がしました。
5条森林の法文を確認しよう!
(地域森林計画)
第五条 都道府県知事は、全国森林計画に即して、森林計画区別に、その森林計画区に係る民有林(その自然的経済的社会的諸条件及びその周辺の地域における土地の利用の動向からみて、森林として利用することが相当でないと認められる民有林を除く。)につき、五年ごとに、その計画をたてる年の翌年四月一日以降十年を一期とする地域森林計画をたてなければならない。
2 地域森林計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 その対象とする森林の区域
二 森林の有する機能別の森林の整備及び保全の目標その他森林の整備及び保全に関する基本的な事項
三 伐採立木材積その他森林の立木竹の伐採に関する事項(間伐に関する事項を除く。)
四 造林面積その他造林に関する事項
五 間伐立木材積その他間伐及び保育に関する事項
六 公益的機能別施業森林の区域(以下「公益的機能別施業森林区域」という。)の基準その他公益的機能別施業森林の整備に関する事項
七 林道の開設及び改良に関する計画、搬出方法を特定する必要のある森林の所在及びその搬出方法その他林産物の搬出に関する事項
八 委託を受けて行う森林の施業又は経営の実施、森林施業の共同化その他森林施業の合理化に関する事項
九 鳥獣害を防止するための措置を実施すべき森林の区域(以下「鳥獣害防止森林区域」という。)の基準その他の鳥獣害の防止に関する事項
十 森林病害虫の駆除及び予防その他の森林の保護に関する事項(前号に掲げる事項を除く。)
十一 樹根及び表土の保全その他森林の土地の保全に関する事項
十二 保安林の整備、第四十一条の保安施設事業に関する計画その他保安施設に関する事項
3 地域森林計画においては、前項各号に掲げる事項のほか、森林の整備及び保全のために必要な事項を定めるよう努めるものとする。
4 第四条第三項の規定は、地域森林計画に準用する。
5 都道府県知事は、森林の現況、経済事情等に変動があつたため必要と認めるときは、地域森林計画を変更することができる。
5条森林の調べ方
各都道府県で森林情報を開示しています。参考として、栃木県森林情報ポータル『とちもりマップ』を記載しました。地域によっては、電子ポータルでの開示はしていない場合もございます。その場合は、所管行政庁の林務課などで机上調査をしてください。
スポンサーリンク重要用語② 伐採及び伐採後の造林の届出書(通称:伐採届)
伐採届ってことは、5条森林を切る時の届出ってことかな?
その通り!1ha以下の伐採を行う場合、届出が必要なんだ!
伐採届の法文を確認しよう!
(伐採及び伐採後の造林の届出等)
第十条の八 森林所有者等は、地域森林計画の対象となつている民有林(第二十五条又は第二十五条の二の規定により指定された保安林及び第四十一条の規定により指定された保安施設地区の区域内の森林を除く。)の立木を伐採するには、農林水産省令で定めるところにより、あらかじめ、市町村の長に森林の所在場所、伐採面積、伐採方法、伐採齢、伐採後の造林の方法、期間及び樹種その他農林水産省令で定める事項を記載した伐採及び伐採後の造林の届出書を提出しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 法令又はこれに基づく処分により伐採の義務のある者がその履行として伐採する場合
二 第十条の二第一項の許可を受けた者が当該許可に係る同項の開発行為をするために伐採する場合
三 第十条の十七第一項の規定による公告に係る第十条の十五第一項に規定する公益的機能維持増進協定(その変更につき第十条の十八において準用する第十条の十七第一項の規定による公告があつたときは、その変更後のもの)に基づいて伐採する場合
四 第十一条第五項の認定に係る森林経営計画(その変更につき第十二条第三項において読み替えて準用する第十一条第五項の規定による認定があつたときは、その変更後のもの)において定められている伐採をする場合
五 森林所有者等が第四十九条第一項の許可を受けて伐採する場合
六 第百八十八条第三項の規定に基づいて伐採する場合
七 法令によりその立木の伐採につき制限がある森林で農林水産省令で定めるもの以外の森林(次号において「普通林」という。)であつて、立木の果実の採取その他農林水産省令で定める用途に主として供されるものとして市町村の長が当該森林所有者の申請に基づき指定したものにつき伐採する場合
八 普通林であつて、自家の生活の用に充てるため必要な木材その他の林産物の採取の目的に供すべきもののうち、市町村の長が当該森林所有者の申請に基づき農林水産省令で定める基準に従い指定したものにつき伐採する場合
九 火災、風水害その他の非常災害に際し緊急の用に供する必要がある場合
十 除伐する場合
十一 その他農林水産省令で定める場合
2 森林所有者等は、農林水産省令で定めるところにより、前項の規定により提出された届出書に記載された伐採及び伐採後の造林に係る森林の状況について、市町村の長に報告しなければならない。
3 第一項第九号に掲げる場合に該当して森林の立木を伐採した森林所有者等は、農林水産省令で定めるところにより、市町村の長に伐採の届出書を提出しなければならない。
重要用語③ 開発行為(通称:林地開発)
開発って大量に木々を伐採する?ってこと?
まず定義を確認する癖!素晴らしい!
『林地開発』と『伐採届』の違いは?
結論:1haを境に『伐採届』か『林地開発』が決定する。
※道路の新設や太陽光発電を除く
木には、多くの役割があります。土石流などの災害からの防壁機能や、木の根による貯水機能を持つことで安定した地盤状況を維持すること、美観的な街並みの創出、酸素の供給、生物の棲家による生態系の創出など挙げればキリがありません。
大量に伐採することでこれらの恩恵を失い、まちとして脆弱な環境になり、住環境も悪化する可能性が多分にあります。そこでこうした許可制度を敷き、多角的な審査が義務付けられています。これを『林地開発許可制度』と呼びます。
具体的な規制内容の解説は、ここでは割愛させていただきます。林地開発に該当する場合は、各都道府県で細かく基準を定めていますので、各自検索ください。
どの県でもいいから、1つ読めば大体の規制が分かりますよ!
まずはどこかの県をインプットします!
林地開発の法文を確認しよう!
(開発行為の許可)
第十条の二 地域森林計画の対象となつている民有林(第二十五条又は第二十五条の二の規定により指定された保安林並びに第四十一条の規定により指定された保安施設地区の区域内及び海岸法(昭和三十一年法律第百一号)第三条の規定により指定された海岸保全区域内の森林を除く。)において開発行為(土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為で、森林の土地の自然的条件、その行為の態様等を勘案して政令で定める規模をこえるものをいう。以下同じ。)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
一 国又は地方公共団体が行なう場合
二 火災、風水害その他の非常災害のために必要な応急措置として行なう場合
三 森林の土地の保全に著しい支障を及ぼすおそれが少なく、かつ、公益性が高いと認められる事業で農林水産省令で定めるものの施行として行なう場合
2 都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない。
一 当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
一の二 当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
二 当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
三 当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。
3 前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たつては、森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しなければならない。
4 第一項の許可には、条件を附することができる。
5 前項の条件は、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。
6 都道府県知事は、第一項の許可をしようとするときは、都道府県森林審議会及び関係市町村長の意見を聴かなければならない。
スポンサーリンク(開発行為の規模)
第二条の三 法第十条の二第一項の政令で定める規模は、次の各号に掲げる行為の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める規模とする。
一 専ら道路の新設又は改築を目的とする行為当該行為に係る土地の面積一ヘクタールで、かつ、道路(路肩部分及び屈曲部又は待避所として必要な拡幅部分を除く。)の幅員三メートル
二 太陽光発電設備の設置を目的とする行為当該行為に係る土地の面積〇・五ヘクタール
三 前二号に掲げる行為以外の行為当該行為に係る土地の面積一ヘクタール
第2章 実際の協議で起きたトラブルポイント
本章では、前章の3つのワードに絡む現場でのトラブルになりやすいポイントとその対策法を解説します。現場で進行する独自の視点からお伝えしていきます!
ポイント① 『5条森林範囲』に実際の木が存在しない?
<計画概要>
用途:宿泊施設
建築:既存建物解体の上、新築予定
地域森林計画:一部指定あり(※現況の森林範囲と異なる)
『5条森林』の指定範囲に、実際は木が1本もない?
何かの間違いじゃないの?
これ結構あるあるなんだよね。。。間違いじゃないケースが多いよ!
行政の結論は、
『5条森林を正とする。過去に伐採届出が出ているが、非常に古いので経緯不明。』
気持ちが悪いけど、そのまま理解するしかないね!
<現場でのトラブル防止法>
『地域森林計画』と『敷地及び配置図』を重ね合わせ図を作成してください。現況と比較し、齟齬がないか?齟齬がある場合、行政の見解を迅速に仰ぎましょう。仮に現況森林がない範囲に、地域森林計画の範囲が指定されていた場合、申請上の伐採面積が大幅に増える危険性があります。
※林地開発該当の場合、規制制度が非常に強まります。当然事業の難易度も上がります。ご留意ください。
ポイント② 林地開発の『おおむね』に気をつけて!
敷地形状によっては、事業計画が成立しない。。。
林地開発で気をつけるべきは、周辺部の残地森林と森林率と残地森林率です。敷地形状や寸法によっては、周辺部に30mの森林を確保することが難しい場合があります。上記の図の場合、計画可能範囲が極端に少なくなってしまいます。
<私が担当するプロジェクトで実際に受けた行政指導>
『おおむね』という言葉の通り、可能な限り30m確保することが『望ましい』と解釈することが可能です。敷地によっては確保できない場合もある為、基本的には『森林率』や『残地森林率』のクリアを遵守できていれば問題ないと判断をしてくれる行政が多いです。
ポイント③ 知らないと怖い『一体性』!永遠に追いかけてくる。
『一体性』ってなんのことだ?
一言で言うと
『複数の敷地で伐採を行う場合、一体的な計画だったら合計でみてね!』と言う意味です。
『一体性』の判定基準については、具体的な事例が林野庁から公表されています。
私は、ここでつまづきそうになりました。
<実際のトラブルはこうやって起きる!>
宿泊施設のリゾート開発です。結果的に3期開発となりました。1期開発時点では、連続的な開発を全く想定をしていませんでした。行政にもその旨、説明をしていました。しかし、1期開発の業績が非常に好調で隣地が売りに出ていた。こうして図らずも連続開発になってしまった。当然行政からは、計画的な開発と疑われてしまい保守的で常に警戒されるような関係性となり、協議が難航していた。
おわりに
森林法の知識は、特にリゾート開発において、トラブルを回避するための重要なポイントです。現地の状況を正確に把握し、適切な手続きを踏むことで、スムーズなプロジェクト進行が可能となります。本記事で紹介した事例と対策法を参考に、設計者の皆様がより確実なプロジェクト運営を行えることを願っています。自然との共生を大切にしながら、持続可能な開発を目指していきましょう。