
「寒冷地や積雪が多い地域での建築設計の屋根やパラペットやバルコニーの留意点」について教えて下さい!

地域毎の特性を把握して計画に落とし込むことが重要だよね!
『寒冷地での留意事項について』を解説しよう!
はじめに

積雪や寒風が厳しい地域では、屋根や外装部分に大きな負担がかかります。設計段階で十分に対策を検討していないと、つららや落雪、凍害による損傷など多くのトラブルを招きかねません。
本記事では、勾配屋根・パラペット・バルコニーと屋外階段における代表的な問題点と実務的な解決策をご紹介します。

第1章 勾配屋根の設計上の工夫

積雪地における屋根は、建物の安全性や快適性を大きく左右します。つらら、巻き垂れ、凍害、結露など、雪と寒さがもたらす課題は多岐にわたるため、適切な勾配や納まりを計画することが欠かせません。
問題事象①:つららやすがもれが発生する
対応策:金属板屋根の採用、勾配3寸以上確保、軒の出450mm以上、断熱強化、水切れの良い納まり
問題事象②:巻き垂れが生じて落雪する
対応策:防水立ち上がり300mm以上、雪庇防止柵、笠木ヒーター設置、外周部空間の確保
問題事象③:水勾配不足による凍結や防水層の損傷
対応策:水勾配1/75程度、押えコンクリート80mm以上(溶接金網入り)
問題事象④:屋上スラブの結露
対応策:断熱の連続性確保、梁・間仕切りの断熱補強、外断熱では吸湿防止やドレン周りの強化
問題事象⑤:防水層の損傷リスク
対応策:気象条件に応じた防水仕様、利用形態に応じた露出防水・保護防水の選定、JIS規格に準拠した材料選択(アスファルト・シート・FRP・塗膜など)
問題事象⑥:側溝の浮きやひび割れ
対応策:躯体勾配でドレンへ集水
問題事象⑦:屋上機械基礎の凍害による損傷
対応策:ウレタン塗膜防水、アルミ笠木の設置
第2章 パラペットの計画と保護策

パラペットは風雪に直接さらされるため、凍害や雪害の影響を強く受けやすい部位です。防水や外装の劣化を防ぐため、形状や材料選び、細部の納まりに工夫が求められます。
問題事象①:凍害による笠木の破損と浸水
対応策:RC打ちを避け金属笠木を採用、水勾配1/10以上、手すり不設置、結露防止策(二次排水・防錆対策)
問題事象②:笠木に積もった雪の落下
対応策:笠木の立ち上がりを最小限にする、電気ヒーターの設置
問題事象③:避雷導体への着雪や落下リスク
対応策:突針型や笠木一体型の避雷導体を採用
第3章 バルコニー・屋外階段の安全性確保

バルコニーや屋外階段は積雪により埋まってしまい、日常利用が困難になる場合があります。利用者の安全と利便性を守るためには、雪対策と風対策を両立させた設計が不可欠です。
問題事象:雪に埋まり使用できなくなる
対応策:屋根や庇の設置(最上階含む)、開放性を確保しつつ吹き込み防止の工夫
おわりに

勾配屋根やパラペット、バルコニーなどの外部空間は、積雪寒冷地では特に注意が必要な部分です。雪や凍結による事故や損傷を未然に防ぐには、材料や納まりの工夫、そして設備の導入が欠かせません。設計段階からリスクを想定し、適切な解決策を組み込むことで、長く安全に利用できる建築を実現できます。
本記事のサマリー
カテゴリー | 問題事象 | 主な原因 | 対応策例 |
---|---|---|---|
勾配屋根 | つらら・すがもれ | 雪害・凍害 | 金属板屋根、勾配3寸以上、断熱強化 |
勾配屋根 | 巻き垂れ・落雪 | 雪害 | 防水立ち上がり300mm以上、雪庇柵、ヒーター |
勾配屋根 | 水勾配不足で防水損傷 | 凍害 | 勾配1/75、押えコンクリート80mm以上 |
勾配屋根 | 屋上スラブの結露 | 結露 | 断熱連続性、外断熱補強、ドレン周り強化 |
勾配屋根 | 防水層の損傷 | 雪害・凍害 | 気象条件考慮の防水仕様、JIS準拠材料 |
勾配屋根 | 側溝の浮きや割れ | 凍害 | 躯体勾配で集水 |
勾配屋根 | 屋上機械基礎の凍害 | 凍害 | ウレタン塗膜防水、アルミ笠木 |
パラペット | 笠木の破損・浸水 | 凍害 | 金属笠木、水勾配1/10、結露対策 |
パラペット | 笠木上の雪落下 | 雪害 | 笠木最小化、ヒーター設置 |
パラペット | 避雷導体の雪氷落下 | 雪害・凍害 | 突針型・一体型導体 |
バルコニー・階段 | 雪に埋まり使用困難 | 雪害 | 屋根・庇設置、開放性と防風対策 |
寒冷地での計画に関してのおすすめ書籍

積雪時に参考になる書籍としては、下記を推奨します。非常に細部までまとめられていますので、寒冷地での計画に関わる人の必携本です。