非常用昇降機の緩和与件の31mの取り方を教えて欲しいです!
『建築基準法』と『建築物の防火避難規定の解説』を基に、わかりやすく解説しよう!
はじめに
「非常用エレベーター」は、万が一の災害時に消防隊が安全かつ迅速に活動できるよう設けられる特別な設備です。しかし、この「非常用エレベーター」の設置や緩和規定には、建物の高さや各階の面積といった厳密な規定が存在します。
本記事では、建築基準法や防火避難規定の要点に基づき、特に「31m」を基準とした設置条件や緩和条件について解説します。消防や建築の専門知識がない方でも理解しやすいよう、丁寧に解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
スポンサーリンク第1章 非常用エレベーターとは?
昇降機には、2種類ある!
意味:人を輸送する為の一般的なエレベーター。
商業施設やビルなどでよく使われている昇降機です。
意味:消防隊が消火及び救助活動に使用するエレベーターです。
災害時に本領を発揮する昇降機です。一般用エレベーターと搭載機能が異なります。災害時でもエレベーター室内の専用パネルで操作可能であり、扉を開けたまま移動することもできます。予備電源対応もされていて、停電にも備えています。
非常用エレベーターは、どんな建物に設置が必要なの?
非常用エレベーターの設置が必要な建物:高さ31mを超える場合
建築基準法を確認しよう!
設置条件は、『建築基準法第34条』です。
(昇降機)
第三十四条 建築物に設ける昇降機は、安全な構造で、かつ、その昇降路の周壁及び開口部は、防火上支障がない構造でなければならない。
2 高さ三十一メートルをこえる建築物(政令で定めるものを除く。)には、非常用の昇降機を設けなければならない。引用:建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)より
緩和条件は、『建築基準法施行令第129条の13の2』です。
スポンサーリンク(非常用の昇降機の設置を要しない建築物)
第百二十九条の十三の二 法第三十四条第二項の規定により政令で定める建築物は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一 高さ三十一メートルを超える部分を階段室、昇降機その他の建築設備の機械室、装飾塔、物見塔、屋窓その他これらに類する用途に供する建築物
二 高さ三十一メートルを超える部分の各階の床面積の合計が五百平方メートル以下の建築物
三 高さ三十一メートルを超える部分の階数が四以下の特定主要構造部を耐火構造とした建築物で、当該部分が床面積の合計百平方メートル以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備でその構造が第百十二条第十九項第一号イ、ロ及びニに掲げる要件を満たすものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの(廊下に面する窓で開口面積が一平方メートル以内のものに設けられる法第二条第九号の二ロに規定する防火設備を含む。)で区画されているもの
四 高さ三十一メートルを超える部分を機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫その他これらに類する用途に供する建築物で主要構造部が不燃材料で造られたものその他これと同等以上に火災の発生のおそれの少ない構造のもの
設置及び構造条件は、『建築基準法施行令第129条の13の3』です。
(非常用の昇降機の設置及び構造)
第百二十九条の十三の三 法第三十四条第二項の規定による非常用の昇降機は、エレベーターとし、その設置及び構造は、第百二十九条の四から第百二十九条の十までの規定によるほか、この条に定めるところによらなければならない。
2 前項の非常用の昇降機であるエレベーター(以下「非常用エレベーター」という。)の数は、高さ三十一メートルを超える部分の床面積が最大の階における床面積に応じて、次の表に定める数以上とし、二以上の非常用エレベーターを設置する場合には、避難上及び消火上有効な間隔を保つて配置しなければならない。
高さ31メートルを超える部分の床面積が最大の階の床面積 非常用エレベーターの数 (一) 1,500平方メートル以下の場合 1 (二) 1,500平方メートルを超える場合 (1)の数に加えて、3,000平方メートル以内ごとに1台追加 3 乗降ロビーは、次に定める構造としなければならない。
一 各階(屋内と連絡する乗降ロビーを設けることが構造上著しく困難である階で次のイからホまでのいずれかに該当するもの及び避難階を除く。)において屋内と連絡すること。
イ 当該階及びその直上階(当該階が、地階である場合にあつては当該階及びその直下階、最上階又は地階の最下階である場合にあつては当該階)が次の(1)又は(2)のいずれかに該当し、かつ、当該階の直下階(当該階が地階である場合にあつては、その直上階)において乗降ロビーが設けられている階
(1) 階段室、昇降機その他の建築設備の機械室その他これらに類する用途に供する階
(2) その主要構造部が不燃材料で造られた建築物その他これと同等以上に火災の発生のおそれの少ない構造の建築物の階で、機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫その他これらに類する用途に供するもの
ロ 当該階以上の階の床面積の合計が五百平方メートル以下の階
ハ 避難階の直上階又は直下階
ニ その主要構造部が不燃材料で造られた建築物の地階(他の非常用エレベーターの乗降ロビーが設けられているものに限る。)で居室を有しないもの
ホ 当該階の床面積に応じ、次の表に定める数の他の非常用エレベーターの乗降ロビーが屋内と連絡している階
当該階の床面積 当該階で乗降ロビーが屋内と連絡している他の非常用エレベーターの数 (一)1,500平方メートル以下の場合 1 (二)1,500平方メートルを超える場合 (1)の数に加えて、3,000平方メートル以内ごとに1台追加 二 バルコニーを設けること。
三 出入口(特別避難階段の階段室に通ずる出入口及び昇降路の出入口を除く。)には、第百二十三条第一項第六号に規定する構造の特定防火設備を設けること。
四 窓若しくは排煙設備又は出入口を除き、耐火構造の床及び壁で囲むこと。
五 天井及び壁の室内に面する部分は、仕上げを不燃材料でし、かつ、その下地を不燃材料で造ること。
六 予備電源を有する照明設備を設けること。
七 床面積は、非常用エレベーター一基について十平方メートル以上とすること。
八 屋内消火栓、連結送水管の放水口、非常コンセント設備等の消火設備を設置できるものとすること。
九 乗降ロビーには、見やすい方法で、積載量及び最大定員のほか、非常用エレベーターである旨、避難階における避難経路その他避難上必要な事項を明示した標識を掲示し、かつ、非常の用に供している場合においてその旨を明示することができる表示灯その他これに類するものを設けること。
4 非常用エレベーターの昇降路は、非常用エレベーター二基以内ごとに、乗降ロビーに通ずる出入口及び機械室に通ずる主索、電線その他のものの周囲を除き、耐火構造の床及び壁で囲まなければならない。
5 避難階においては、非常用エレベーターの昇降路の出入口(第三項に規定する構造の乗降ロビーを設けた場合には、その出入口)から屋外への出口(道又は道に通ずる幅員四メートル以上の通路、空地その他これらに類するものに接している部分に限る。)の一に至る歩行距離は、三十メートル以下としなければならない。
6 非常用エレベーターの籠及びその出入口の寸法並びに籠の積載量は、国土交通大臣の指定する日本産業規格に定める数値以上としなければならない。
7 非常用エレベーターには、籠を呼び戻す装置(各階の乗降ロビー及び非常用エレベーターの籠内に設けられた通常の制御装置の機能を停止させ、籠を避難階又はその直上階若しくは直下階に呼び戻す装置をいう。)を設け、かつ、当該装置の作動は、避難階又はその直上階若しくは直下階の乗降ロビー及び中央管理室において行うことができるものとしなければならない。
8 非常用エレベーターには、籠内と中央管理室とを連絡する電話装置を設けなければならない。
9 非常用エレベーターには、第百二十九条の八第二項第二号及び第百二十九条の十第三項第二号に掲げる装置の機能を停止させ、籠の戸を開いたまま籠を昇降させることができる装置を設けなければならない。
10 非常用エレベーターには、予備電源を設けなければならない。
11 非常用エレベーターの籠の定格速度は、六十メートル以上としなければならない。
12 第二項から前項までの規定によるほか、非常用エレベーターの構造は、その機能を確保するために必要があるものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものとしなければならない。
13 第三項第二号の規定は、非常用エレベーターの昇降路又は乗降ロビーの構造が、通常の火災時に生ずる煙が乗降ロビーを通じて昇降路に流入することを有効に防止できるものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものである場合においては、適用しない。
非常用進入口の設置条件は、『建築基準法施行令第126条の6』です。
スポンサーリンク第五節 非常用の進入口
(設置)
第百二十六条の六 建築物の高さ三十一メートル以下の部分にある三階以上の階(不燃性の物品の保管その他これと同等以上に火災の発生のおそれの少ない用途に供する階又は国土交通大臣が定める特別の理由により屋外からの進入を防止する必要がある階で、その直上階又は直下階から進入することができるものを除く。)には、非常用の進入口を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合においては、この限りでない。
一 第百二十九条の十三の三の規定に適合するエレベーターを設置している場合
二 道又は道に通ずる幅員四メートル以上の通路その他の空地に面する各階の外壁面に窓その他の開口部(直径一メートル以上の円が内接することができるもの又はその幅及び高さが、それぞれ、七十五センチメートル以上及び一・二メートル以上のもので、格子その他の屋外からの進入を妨げる構造を有しないものに限る。)を当該壁面の長さ十メートル以内ごとに設けている場合
三 吹抜きとなつている部分その他の一定の規模以上の空間で国土交通大臣が定めるものを確保し、当該空間から容易に各階に進入することができるよう、通路その他の部分であつて、当該空間との間に壁を有しないことその他の高い開放性を有するものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものを設けている場合
第2章 緩和に纏わる『高さ』や『面積』定義について
高さ31mを超える建築物は非常用エレベーターが必要となりますが、建築基準法第129条の13の2により非常用エレベーターの設置を緩和することができます。この場合の注意点を解説します。
『高さ31mを超える部分の各階の床面積の合計』とは?
まずは法文の原文を確認していこう!下記の部分だね!
(非常用の昇降機の設置を要しない建築物)
第百二十九条の十三の二 法第三十四条第二項の規定により政令で定める建築物は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
(中略)
二 高さ三十一メートルを超える部分の各階の床面積の合計が五百平方メートル以下の建築物
ここで一つ注意点です!
(面積、高さ等の算定方法)
第二条 次の各号に掲げる面積、高さ及び階数の算定方法は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
八 階数 昇降機塔、装飾塔、物見塔その他これらに類する建築物の屋上部分又は地階の倉庫、機械室その他これらに類する建築物の部分で、水平投影面積の合計がそれぞれ当該建築物の建築面積の八分の一以下のものは、当該建築物の階数に算入しない。また、建築物の一部が吹抜きとなつている場合、建築物の敷地が斜面又は段地である場合その他建築物の部分によつて階数を異にする場合においては、これらの階数のうち最大なものによる。
『高さ31mを超える部分の階』とは?
まずは法文の原文を確認していこう!下記の部分だね!
(非常用の昇降機の設置を要しない建築物)
第百二十九条の十三の二 法第三十四条第二項の規定により政令で定める建築物は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
(中略)
三 高さ三十一メートルを超える部分の階数が四以下の特定主要構造部を耐火構造とした建築物で、当該部分が床面積の合計百平方メートル以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備でその構造が第百十二条第十九項第一号イ、ロ及びニに掲げる要件を満たすものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの(廊下に面する窓で開口面積が一平方メートル以内のものに設けられる法第二条第九号の二ロに規定する防火設備を含む。)で区画されているもの
『高さ31mを超える部分の階』の判定について説明します。特定階(任意)で、『地盤面(建築基準法施行令第2条第2項を指す。下記法文参照)』からの高さが31mのレベルが、特定階の途中(『特定階のFL:床面レベル』と『特定階の上階のFL:床面レベル』の中間より下側)にある場合、その階は『高さ31mを超える部分の階』に含まれます。
分かりにくいと思うから、例を挙げて説明をしよう!
<建築条件>
・10階FL:29.5m(地盤面より算定)
・11階FL:33.7m(地盤面より算定)
この場合、『10階は、31mを超える階』かどうかを判定するよね!
特定階=『10階』として公式に当てはめてみよう!
特定階の途中(図中『中間レベル』)=31.6m(地盤面より算定)
31.6m(特定階の途中)> 31.0m
よって、10階は『31mを超える階』に該当します。
※所管行政庁や確認審査機関要確認です。
階高や地盤面の設定変更を行う際は、忘れずに確認をするんだぞ!
今日はこれで残業ができるぞ!がっはっは!!!
スポンサーリンク(面積、高さ等の算定方法)
第二条 次の各号に掲げる面積、高さ及び階数の算定方法は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
2 前項第二号、第六号又は第七号の「地盤面」とは、建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい、その接する位置の高低差が三メートルを超える場合においては、その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう。
第3章 「建築物の防火避難規定の解説」を手に入れよう!
建築基準法や国土交通省の告示や通達を見ても、
本記事に関する情報は、載ってニャイよね?
そうなんだよ。『建築物の防火避難規定の解説』にしか載っていないんだ。
つまりこれがないと、設計が行き詰まってしまう場合があるんだ。
設計者は必ず購入すべき本です!少し高いけど、ずっと使えるから持っておくべきだよ!
おわりに
非常用エレベーターの設置に関する規定は、建物の高さや用途、階数など、細かい条件が多岐にわたります。そのため、防火や避難の観点から適切に理解し、設置基準を守ることが求められます。また、緩和条件を活用することで、効率的な設計が可能になるケースもあります。今回の記事が、非常用エレベーターの設置基準や法的根拠の理解にお役立ちできれば幸いです。
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