温泉を建築計画に取り入れる時は、
何に注意すればよいですか?
温泉計画に関する用語の解説と計画段階で考慮すべきポイントを教えるね!
特に現場でトラブルになりやすい部分と対策も伝えるよ!
はじめに
近年のサウナブームに伴い、温泉を含む温浴施設の需要が高まっています。温泉を取り入れた施設は他の施設と差別化できる魅力的な要素ですが、その計画には多くの知識と慎重な考慮が求められます。本記事では、温泉を建築計画に組み込む際に知っておくべき基本用語や、計画段階で注意すべきポイント、さらには現場でよく発生するトラブルとその対策について詳しく解説します。
スポンサーリンク第1章 掛け流し?天然温泉?源泉?加水?ってなに?
温泉計画では、さまざまな専門用語が出てきます。聞き馴染みのある言葉もありますが、実は意味の違いをよく理解できていない場合があります。まずは、基本的なワードをいくつかご紹介します。
用語の定義
温泉とは?
温泉法第二条で下記のように定義されています。
(定義)
第二条 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。
要約すると、下記の2条件のいずれかに当てはまる場合『温泉』に該当します。
1 地中からの湧出温度が、25℃以上の場合
2 下表項目のいずれかの成分が規定値以上の場合
物質名 | 含有量(一キログラム中) |
---|---|
溶存物質(ガス性のものを除く。) | 総量 1,000ミリグラム以上 |
遊離炭酸(CO₂) | 250ミリグラム以上 |
リチウムイオン(Li⁺) | 1ミリグラム以上 |
ストロンチウムイオン(Sr²⁺) | 10ミリグラム以上 |
バリウムイオン(Ba²⁺) | 5ミリグラム以上 |
フェロ又はフェリイオン(Fe²⁺, Fe³⁺) | 10ミリグラム以上 |
第一マンガンイオン(Mn²⁺) | 10ミリグラム以上 |
水素イオン(H⁺) | 1ミリグラム以上 |
臭素イオン(Br⁻) | 5ミリグラム以上 |
ヨウ素イオン(I⁻) | 1ミリグラム以上 |
フッ素イオン(F⁻) | 2ミリグラム以上 |
ヒドロヒ酸イオン(HAsO₄²⁻) | 1.3ミリグラム以上 |
メタ亜ヒ酸(HAsO₂) | 1ミリグラム以上 |
総硫黄(S)〔HS⁻+S₂O₃²⁻+H₂Sに対応するもの〕 | 1ミリグラム以上 |
メタホウ酸(HBO₂) | 5ミリグラム以上 |
メタケイ酸(H₂SiO₃) | 50ミリグラム以上 |
重炭酸ソーダ(NaHCO₃) | 340ミリグラム以上 |
ラドン(Rn) | 20(百億分の一キュリー単位)以上 |
ラジウム塩(Raとして) | 1億分の1ミリグラム以上 |
別表
一 温度(温泉源から採取されるときの温度とする。)
摂氏二十五度以上
二 物質(左に掲げるもののうち、いづれか一)
物質名
含有量(一キログラム中)
溶存物質(ガス性のものを除く。)
総量一、〇〇〇ミリグラム以上
遊離炭酸(CO2)
二五〇ミリグラム以上
リチウムイオン(Li・)
一ミリグラム以上
ストロンチウムイオン(Sr・・)
一〇ミリグラム以上
バリウムイオン(Ba・・)
五ミリグラム以上
フエロ又はフエリイオン(Fe・・,Fe・・・)
一〇ミリグラム以上
第一マンガンイオン(Mn・・)
一〇ミリグラム以上
水素イオン(H・)
一ミリグラム以上
臭素イオン(Br’)
五ミリグラム以上
沃素イオン(I’)
一ミリグラム以上
ふっ素イオン(F’)
二ミリグラム以上
ヒドロひ酸イオン(HAsO4”)
一・三ミリグラム以上
メタ亜ひ酸(HAsO2)
一ミリグラム以上
総硫黄(S)〔HS’+S2O3”+H2Sに対応するもの〕
一ミリグラム以上
メタほう酸(HBO2)
五ミリグラム以上
メタけい酸(H2SiO3)
五〇ミリグラム以上
重炭酸そうだ(NaHCO3)
三四〇ミリグラム以上
ラドン(Rn)
二〇(百億分の一キユリー単位)以上
ラヂウム塩(Raとして)
一億分の一ミリグラム以上
<現場で要チェック項目>
温泉には『温泉分析書』があるよ!
成分や温度やPHなど様々な情報が載っているので、
絶対に目を通しましょう!
源泉とは?
地中から湧き出る温泉を指します。温泉法では、定義がありません。『源泉を掘り当てる』なんてよく漫画で目にする話だと思いますが、源泉の出方によって下記の通り、呼び方が異なります。
自然湧出
自然に源泉が地表面に湧き出る状態を指します。
掘削自噴
地面を掘ることで源泉が湧出する状態を指します。
動力揚湯
地面を掘り、ポンプ設備などを用いて汲み上げる状態を指します。
掛け流しとは?
掛け流しとは、常にお湯を浴槽に注ぎ続け、溢れさせている状態を指します。
溢れたお湯を再利用すると、掛け流しって言えないよ!
スポンサーリンク掛け流しとは?
常時浴槽に新湯を注入して溢流(オーバーフロー)させ、溢流した温泉を再び浴槽に戻して再利用しない状態
引用:日本温泉協会 温泉の定義
加温とは?
温泉を湧出温度以上に温め、浴槽に注ぐことを指します。
加温
源泉から湧出する温泉に事業者が熱を加えて湧出温度以上に温めて浴槽に注湯することです。湧出温度が低い源泉の場合に実施されるケースが多くなっています。加温の方法としては、ボイラー等を利用して温泉を直接加温する方法、熱交換器等を利用して加温する方法、温水または熱水を加水して加温する方法等に分類することが出来ます。なお、循環(濾過)装置を利用している場合に浴槽温度の低下を防ぐために熱を加えている場合も該当します。加温を実施している場合は、その状況とその理由を明示することが義務付けられています。
引用:日本温泉協会 温泉の定義
加水とは?
温泉に水(水道水・井戸水・湧水・河川水・湖畔水・海水等)を混ぜ、浴槽に注ぐことを指します。
加水
源泉から湧出する温泉に事業者が水道水・井戸水・湧水・河川水・湖沼水・海水等を加えて浴槽に注湯することです。消費者(施設利用者)が浴槽に上記の水を加えることについては、加水とみなさないことになっています。
加水の目的としては、高温源泉の場合に低温水を加える冷却、低温源泉の場合に温水や熱水を加える加温、湧出量の少ない場合に低温水を加える増量または温水・熱水を加える加温・増量併用、源泉の成分を薄める希釈に分類できます。特に高アルカリ性の温泉については、利用許可を出す条件として希釈が義務づけられる場合もあります。加水を実施している場合は、その状況とその理由を明示することが義務付けられています。引用:日本温泉協会 温泉の定義
循環式とは?
動力を用いて浴槽内のお湯を浴槽外に一時的に出し、再度浴槽に返して再利用する状態を指します。
循環濾過式とは?
循環式に加え、お湯を浴槽外に一時的に出した時に、濾過設備を用いて綺麗にしてから、浴槽に返す状態を指します。
スポンサーリンク循環式・循環濾過式
浴槽に常時新湯を注入することなく浴槽内の湯を吸引等により浴槽外に出し(当該浴槽以外の浴槽の湯も含む)を再び浴槽に戻して再利用する方式です。濾過器等を通して汚れやゴミ等を除去している場合は循環濾過式、濾過器が無い場合は循環式となります。入浴等によって浴槽の湯が減少した場合、断続的に新湯を注入している場合もあります。注入する新湯については、温泉ではないことを明示すれば温泉以外の水源を利用することが可能です。また、温泉を利用する場合においても、温泉への加水および加温は可能ですが、その実施状況と理由の明示が義務付けられています。
引用:日本温泉協会 温泉の定義
一般的な温泉の呼称
源泉100%掛け流し
源泉をそ・の・ま・ま使います。加水、加温をせずに提供する為、源泉の状態が適当でないと実現が難しいです。
源泉100%かけ流し(源泉100%完全放流式)
常時浴槽に新湯を注入して溢流(オーバーフロー)させ、溢流した温泉を再び浴槽に戻して再利用しない「かけ流し」の状態で、注入する新湯については温泉を利用しなければなりません。また、「源泉かけ流し」と謳うよりもさらに自然の状態に近い印象を与える強調表示であるため、温泉への加水・加温はいずれもすることは出来ないことになっています。源泉100%完全放流式と同義語です。
引用:日本温泉協会 温泉の定義
源泉100%・天然温泉100%
温泉の利用形態で最も自然度が高い印象を与える強調表示。公正取引委員会では、湧出した温泉を加水・加温・循環・濾過することなく利用する場合にのみこの表記が使用できるとしています。なお、この表記を使用する場合は、上記の合理的根拠の提出を求められ提出できない場合は不当表示に当たる可能性が指摘されています。
引用:日本温泉協会 温泉の定義
源泉掛け流し
源泉に加温を行い、利用します。あくまで源泉としての規格を損なわない様に調整して注ぎ続けるイメージです。
源泉かけ流し(源泉完全放流式)
浴槽に常時新湯を注入して溢流(オーバーフロー)させ、溢流した温泉を再び浴槽に戻して再利用しない「かけ流し」の状態で、注入する新湯については温泉を利用しなければなりません。また、単に「かけ流し」と謳うよりも自然の状態に近い印象を与える強調表示であるため、温泉へ加水することは出来ないことになっています。
なお、公正取引委員会では成分の変化が少ないという観点から加温に関しては可能という見解を示していますが、実施している場合はその状況とその理由を明示することが義務付けられています。源泉完全放流式と同義語です。引用:日本温泉協会 温泉の定義
温泉掛け流し
源泉に加水や加温を行い、利用します。あくまで入浴しやすいように加水及び加温などで調整し、注ぎ続けます。
温泉かけ流し(温泉完全放流式)
浴槽に常時新湯を注入して溢流(オーバーフロー)させ、溢流した湯を再び浴槽に戻して再利用しない「かけ流し」の状態で、注入する新湯については温泉を利用しなければなりません。温泉への加水および加温は可能ですが、実施している場合はその状況とその理由を明示することが義務付けられています。温泉完全放流式と同義語です。
引用:日本温泉協会 温泉の定義
天然温泉
浴槽のお湯を循環設備を利用して、再利用します。
天然温泉
温泉法の温泉と同様の定義で、人工温泉等の温泉法上の温泉以外のものと温泉法上の温泉の違いを明確にするため、昭和51年に(社)日本温泉協会が天然温泉表示制度を策定しました。用語としては、それ以前から使われていたこともあるようです。
公正取引委員会では、平成15年に温泉の表示についての実態調査を実施し、温泉という表記と比較して「より自然度が高いという印象を与える」強調的な表示であると指摘しています。引用:日本温泉協会 温泉の定義
<現場あるある項目>
源泉量が限られている場合や使用水量を抑えたい場合によく採用されるよ!
人工温泉
一言で言うと、特殊なバスクリンと想像してください。天然鉱物由来の薬剤や鉱石を用いてお湯を作り、浴槽へ配湯します。
スポンサーリンク第2章 温泉の利用計画について
引湯方式
源泉から繋がる引湯管で受湯する方式です。よくあるケースとしては、温泉供給業者の温泉管を敷地前面まで敷設してある状態から、敷地内に分岐してもらい、繋ぎ込みをするイメージです。
<現場で要チェック項目>
温泉供給会社は、1次側の供給のみを担当するケースが一般的です。
敷地内の2次側の温泉設備設計まではできないことが多いため、温泉の設備設計を可能とする会社を別途探すことが賢明です。
上記クリティカルの源泉量で、
自然と源泉比率が決まってしまうってことだね!
運び湯方式
源泉をタンクローリー車などで敷地まで輸送し、敷地内のタンクに貯めて利用する方式です。
<現場で要チェック項目>
土地取得の段階から温泉業者にヒアリングし、そもそも配湯型なのか?引湯型なのか?自分の立ち位置を把握しましょう!
自己所有方式
敷地内に源泉を所有している方式です。地方に行くと源泉付きの土地はよく売られています。動力設備などを設置して、安定した湯量確保をする必要があります。
<現場で要チェック項目>
よく『以前は源泉として使われていたが、掘ってみないと出るか分からない』という条件つきで土地が売られていますが、その調査費用に1000万円程度かかることがあるので要注意です。
第3章 温泉計画に必要な湯量を把握しよう
本章の主旨です。土地購入時点では、大体の温泉湯量を試算することで温泉のイニシャルコストやランニングコストの解像度を高めることは事業計画上、非常に重要です。その為、詳細な温泉設備設計というよりは、大体の必要湯量を試算する程度の解説としています。
源泉湯量を試算して源泉のコストを事業計画に早期に組み込む!
1 客室内の浴槽のサイズを決める
例えば、浴槽内の有効寸法を1.6×1.2×0.5(m)とします。満杯にする為には、0.96tのお湯が必要です。
2 浴槽数を定める
ここでは宿泊施設を想定し、20室とします。
3 張り替え回数を定める
一般的には、一回の宿泊で最低1度はお湯を張り替えることを想定します。その場合、浴槽2回分のお湯が必要となります。
4 源泉比率を定める。
源泉比率というのは、『総湯量に対する源泉量』の割合です。ここでは、3割とします。
5 客室稼働率(OCC)を仮定する。
客室稼働率の最も高いハイシーズンを想定して試算をしましょう。あくまでここは事業計画上の数値で構いません。ここでは、50%とします。
与条件を元に試算をする
源泉の契約の仕方によりますが、1日あたりと1ヶ月あたりの契約源泉水量の目安を押さえておきましょう。
1日あたり必要な源泉水量=5.76t
算定式:0.96t(浴槽容量)×20室(客室数)×2回(湯の張り替えを考慮)×30%(源泉比率)×50%(客室稼働率)
1ヶ月あたり必要な源泉水量=178.56t
算定式:5.76t×31日
使用水量の契約方法は、さまざまだよ!
今まででユニークだったのは、
同じ使用水量でも『露天風呂』と『室内風呂』で料金が異なる契約方式だったよ!
第4章 温泉の設備設計
前章の総湯量までは、手元で大体の当たりをつけることは可能です。その後の温泉の設計については、温泉設備業者に協力を仰ぎましょう。特に電磁弁での遠隔制御設定や、水濁法対策の排水処理設備など、地域特性に応じた設備を一般の設計者が計画することは難しいです。
レジオネラ菌を考慮して設備設計をしましょう!
スポンサーリンク第5章 水質汚濁防止法に注意を!
温泉を利用する場合、『排水』をする際の成分基準を遵守する必要がございます。水質汚濁防止法(以降、水濁法)では、有害物質の基準が定められています。
下記水濁法第三条の通り、都道府県が上乗せで排水基準を定めることができます。
(排水基準)
第三条排水基準は、排出水の汚染状態(熱によるものを含む。以下同じ。)について、環境省令で定める。
2前項の排水基準は、有害物質による汚染状態にあつては、排出水に含まれる有害物質の量について、有害物質の種類ごとに定める許容限度とし、その他の汚染状態にあつては、前条第二項第二号に規定する項目について、項目ごとに定める許容限度とする。
3都道府県は、当該都道府県の区域に属する公共用水域のうちに、その自然的、社会的条件から判断して、第一項の排水基準によつては人の健康を保護し、又は生活環境を保全することが十分でないと認められる区域があるときは、その区域に排出される排出水の汚染状態について、政令で定める基準に従い、条例で、同項の排水基準にかえて適用すべき同項の排水基準で定める許容限度よりきびしい許容限度を定める排水基準を定めることができる。
4前項の条例においては、あわせて当該区域の範囲を明らかにしなければならない。
5都道府県が第三項の規定により排水基準を定める場合には、当該都道府県知事は、あらかじめ、環境大臣及び関係都道府県知事に通知しなければならない。
特に法定河川(一級河川や二級河川など)付近の水域では、
厳しい上乗せ条例が定められていることが多いです。
<現場要チェック項目>
『ヒ素』は本当に気をつけてください。泣
泉質と都道府県や市町村の上乗基準にもよりますが、ヒ素を相手に戦うとなると、
ヒ素除去装置など1000万円以上のイニシャルコストがかかります。
特に厳しかったのは、長野県の蓼科でした。。。
おわりに
温泉を計画に組み込むことは、施設の魅力を高める一方で、様々な技術的および法的な要件をクリアする必要があります。適切な用語の理解や現場での注意点を把握することで、温泉の計画を成功に導くことができます。今回の解説が、温泉計画を考える上での参考となり、トラブルの回避やより魅力的な施設づくりに貢献できれば幸いです。