
遮音性能の試験ってどうやってやっているか教えて下さい!

建物において遮音性能は非常に重要です。
今回は、遮音試験の実際の様子や試験結果のサンプルを用いてわかりやすく解説します!
はじめに

マンションでの生活やホテルに宿泊したとき、「上階の足音が気になって眠れなかった…」「隣室の物音が響いた…」という経験は誰しも一度はあるのではないでしょうか。こうした“生活音のストレス”を防ぐため、実際の建築プロジェクトでは、竣工前に 遮音性能試験 を行い、設計どおりの性能が確保されているかを実測で確認する場合があります。
本記事では、試験の目的・現場での試験の様子・遮音性能試験のサンプル(床衝撃音測定)を現場目線でわかりやすく解説します。

第1章 遮音試験とは?

建物の用途に応じ、求められる遮音性能は異なります。特にマンションやホテルの客室は、通常複数の利用者が「上下・左右」に滞在する特殊な空間です。そのため、次のような音のトラブルが起こりやすくなります。
- 上階の足音や飛び跳ね
- スーツケースの落下音
- 家具の移動音
- 隣室の生活音や振動
これらの音が快適性を大きく損なうため、竣工前には JIS 規格に基づく遮音性能試験 を実施して、構造・仕上げ・遮音材が設計どおりに機能しているかを確認をする場合がございます。
床衝撃音試験の種別は、大きく2種類ある!
軽量衝撃音

- タッピングマシンによる“コツコツ”という軽い衝撃
試験方法は、JIS A 1418-1を参照ください。
重量衝撃音

- ゴムボールやバングマシンによる“ドスン”という重い衝撃
試験方法は、JIS A 1418-2を参照ください。
この2つの性能を実測したうえで、客室の総合的な遮音性能を評価します。

Dr値?TLD?LL?LH?。。。そもそも遮音性能ってなんだっけ?という方は、こちらの記事を理解した上で本記事を読むことを推奨します。
第2章 軽量衝撃音試験 ― タッピングマシンが刻む規則正しい「コツコツ音」

■ 試験の目的
軽量衝撃音は、
- ハイヒールの足音
- スプーンを落とす音
- 軽い家具の移動
のような“高音域の軽い衝撃音”を想定します。
主に、「物が軽く当たった程度の音」がどの程度下階に響くのかを確認するため非常に重要です。
■ 現場での試験の様子

実際に立ち会ってみると、タッピングマシンは意外と小型で、上階の部屋の中央に置かれます。スイッチを入れると 規則正しいテンポでコツコツと床を叩く音 が鳴り始めます。
下階の部屋に移動すると、天井からその音がかすかに聞こえてきます。ここでマイクロフォンを設置し、周波数帯別に音圧レベルを測定していきます。
■ 測定のポイント

- 複数の位置で測定する
- 周波数帯(250Hz〜2kHz)ごとに評価
第3章 重量衝撃音試験 ― スーツケースが落ちたような「ドスン」という低音衝撃

■ 試験の目的
重量衝撃音は、
- 子供が飛び跳ねる
- 重い荷物を落とす
- 椅子を勢いよく引く
などの“低音域の大きな衝撃”を想定します。
軽量衝撃音よりも不快感が強く、クレーム原因にもなりやすいため、こちらも必須の試験です。
■ 現場での試験の様子

重量衝撃源のゴムボールを採用しましたが、軽量衝撃音より一回り大きく、「ドンッ!」と床を揺らすような衝撃音 を発生させます。打撃のたびに、下階の床がわずかに振動するのを体感しました。
下階では、軽量衝撃音と同じくマイクを使って音圧を測定しますが、低音域の評価が非常に重要になります。
■ 測定のポイント

- 低音域の測定結果が性能を大きく左右
- 打撃位置がズレると測定結果に影響
重量衝撃音は改善が難しいため、設計段階から床構造の検討や仕上げの選定が不可欠だと改めて実感しました。
スポンサーリンク第4章 立ち会って気づいた遮音試験の“リアル”

現場で実際に立ち会ってみて、机上の調査では分からなかったことがいくつもありました。
1. 測定は「家具のない部屋」で行う
家具が入ると音の反射・吸音が変わるため、実使用状態とはわずかに差が出ます。
2. 低音は“数値以上の不快感”がある
重量衝撃音の「ドスン」という音は、数値よりも“体感”の方が印象に残るため、実測の意義は大きい。
3. 施工のわずかなズレが結果に影響
天井裏の遮音材の施工不備や、二重天井の隙間などは“測定するとすぐわかる”という現実を体感しました。
4. 測定は「設計図の正しさ」を照合する作業
遮音試験は、設計者・施工者にとって「図面どおりに性能が出ているか」を確認する最終チェックです。
スポンサーリンク第5章 遮音性能を確保するための実務的ポイント5選!

試験に立ち会った視点から、実務上押さえておくべきポイントをまとめます。
- 遮音材の施工精度が最重要:天井裏・床下のわずかな隙間が結果を左右
- 測定は1回では不十分:複数位置・複数周波数で評価する
- 設計値=保証値ではない:実測で初めて性能が確定する
- 一度悪い値が出ると改善が難しい:特に重量衝撃音は手直し困難である
- 運営後も影響が出やすい:設備工事で天井を開口すると性能が落ちる可能性
遮音性能の確保は「設計・施工・運営」の三位一体で考えることが重要です。
スポンサーリンク第6章 実際の遮音性能試験結果を見てみよう!

以下は、実際の測定記録をイメージしたサンプルです。(実際の値は物件仕様により大きく異なります)
重量衝撃音の場合


軽量衝撃音の場合



複数の実測値から平均の衝撃音(dB)を算出して、表にプロットしているね。今回は、各5点の平均を算出していそうだよ!そして表を見ると、一番性能値が低い値でL値を定めているんだ!
おわりに

遮音性能試験は、単なる数値確認ではなく、「設計で狙った性能が、実際の建物として成立しているか」を確かめるための重要な工程です。今回、軽量衝撃音・重量衝撃音の試験に実際に立ち会ってみて、図面や計算だけでは分からない“音の体感”や、施工精度が結果に直結する現実を強く実感しました。特に重量衝撃音は、完成後の改善が非常に難しく、設計段階での床構造検討や、施工時の細かな納まり確認が不可欠です。遮音性能は、設計・施工・運営のどれか一つが欠けても成立しません。本記事が、遮音試験の実態を知りたい設計者や、性能確認に不安を感じている実務者の方にとって、現場判断の一助になれば幸いです。
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