
「寒冷地や積雪が多い地域での建築設計の吹き抜けの留意点」について教えて下さい!

地域毎の特性を把握して計画に落とし込むことが重要だよね!
『寒冷地での吹き抜けの留意事項について』を解説しよう!
はじめに

吹抜けは建築に開放感や採光をもたらす魅力的な要素ですが、その一方で居住性や耐久性に関わる課題も多く潜んでいます。特に積雪寒冷地では、温熱環境の不均衡や雪害・凍害による不具合が顕著に現れます。
本記事では、吹抜け空間における代表的な問題点と、その設計上の解決策について整理してご紹介します。

第1章 居住性に関する課題と対応策

吹抜け空間は視覚的な広がりや採光性を高める一方で、暖気が上部に滞留しやすく、上下階での温度差が生じやすい特徴があります。特にトップライトを設ける場合には、断熱性能や暖房方式の選択が居住快適性に直結します。
- 問題事象:吹抜け上部にトップライトがあると、垂直方向で温度分布が偏りやすい。
- 主な原因:結露・温熱環境の不均衡
- 対応策:
- 吹抜け規模や用途に応じた暖房方式を採用する
- 室内各部の温度を確認し、必要に応じて補助暖房を設ける
- コールドドラフトを防ぐため断熱性能の高いトップライトを設置する(断熱サッシ、ペアガラス等)
- 発熱ガラスや床暖房を導入する
第2章 ガラス屋根の設計と安全性確保

吹抜け空間をより印象的に演出する要素としてガラス屋根が採用されますが、積雪や凍害の影響を強く受けやすい部位でもあります。破損や漏水を防ぎ、維持管理しやすい設計が求められます。
2-1 ガラス屋根端部の損傷や落雪氷のリスク
- 問題事象:積雪や雪庇によって端部が破損、漏水、落雪・落氷の恐れがある。
- 主な原因:雪害・凍害
- 対応策:
- ガラス屋根は雪が直接落下しない位置に設ける
- 屋根勾配を約45度とし、シンプルな形状にする(谷を設けない)
- 防水保護面からの立ち上がり高さを積雪量に応じて設定
- 雪が溜まりやすい箇所には除雪スペースや融雪装置を確保
2-2 サッシやジョイント部の凍害による不具合
- 問題事象:雪がサッシやジョイント部に残り、凍結して漏水の原因になる。
- 主な原因:雪害・凍害
- 対応策:
- ガラス傾斜に沿わせたシーリングを施し、雪が滑りやすい納まりにする
2-3 下地鉄骨部での結露発生
- 問題事象:下地鉄骨とサッシが一体化し、結露を誘発する。
- 主な原因:結露
- 対応策:
- サッシを鉄骨に密着させず、空気が流れる余裕を持たせる
- 結露水に備えてサッシ下部に樋を設け、排水経路を確保
2-4 網入りガラスの熱割れ
- 問題事象:複層ガラスに網入りを使用すると熱割れが生じる恐れがある。
- 主な原因:低温障害
- 対応策:
- 熱割れ計算を行い安全性を確認する
- 飛散防止フィルムを貼る
- 目地幅やシーリング材は湿度変化や伸縮を考慮して設計
2-5 清掃・メンテナンス時の安全性
- 問題事象:ガラス屋根の清掃・点検作業に危険を伴う。
- 主な原因:雪害・作業環境
- 対応策:
- はしごやキャットウォーク、ゴンドラなどの作業設備を設置
- 冬季の外部作業を避ける計画とする
- 冬でも安全にアクセスできるよう除雪・融雪の導線を確保
- ガラス交換に対応できる大きさや作業環境を考慮
おわりに

吹抜けは建物に開放感と魅力を与える一方で、温熱環境の制御やガラス屋根の維持管理など、多面的な課題を抱えています。特に寒冷地では、雪害や凍害による影響を見越した慎重な計画が不可欠です。適切な対策を講じることで、吹抜けの快適さを最大限に活かしながら、安全で持続的な建築を実現することができます。
カテゴリー | 問題事象 | 主な原因 | 対応策例 |
---|---|---|---|
居住性 | 吹抜け上部で温度差が生じやすい | 結露・温度差 | 暖房方式の工夫、断熱サッシ、発熱ガラス、床暖房 |
ガラス屋根 | 端部破損・漏水・落雪氷 | 雪害・凍害 | 屋根勾配45度、単純形状、融雪設備 |
ガラス屋根 | サッシやジョイント部の凍害 | 雪害・凍害 | シーリングを傾斜に沿わせ施工 |
ガラス屋根 | 下地鉄骨部の結露 | 結露 | サッシと鉄骨を密着させない、排水経路確保 |
ガラス屋根 | 網入りガラスの熱割れ | 低温障害 | 熱割れ計算、飛散防止フィルム、適切なシーリング |
ガラス屋根 | 清掃や点検時の作業リスク | 雪害・作業環境 | 作業床・ゴンドラ設置、冬期作業制限、除雪動線確保 |
寒冷地での計画に関してのおすすめ書籍

積雪時の設計で参考になる書籍としては、下記を推奨します。非常に細部までまとめられていますので、寒冷地での計画に関わる人の必携本です。