
ホテルを選ぶ時って、客室内部の魅力を見て選ぶことが多いんですよね。

ホテルの魅力は客室の中だけにあるわけじゃない。今回は、共用空間や家具・備品の選び方に、ホテルづくりの面白さを感じた宿を紹介するよ。
はじめに

今回宿泊したのは、沖縄県名護市にある「UNTEN INN(ウンテンイン)」。
ここで印象に残ったのは、豪華な客室や大規模な設備ではない。廊下に並ぶCD、エレベーター内の小さな瓶のコレクション、レトロゲーム、そして一つひとつ選び抜かれたような家具や備品だ。個性的な要素が数多くあるにもかかわらず、空間全体には不思議な統一感がある。
本記事では、UNTEN INNの宿泊体験を通じて、ホテルの価値をつくる共用空間とFFEの力について考えてみたい。

第1章 沖縄北部で見つけた、少し変わったホテル

UNTEN INNは、沖縄本島北部の名護市にある宿泊施設だ。沖縄北部には、美ら海水族館や古宇利島などの観光スポットがあり、観光地を巡るための拠点として宿泊先を探す人も多いだろう。そのなかでUNTEN INNは、一般的なリゾートホテルとは少し異なる個性を持っている。

公式サイトが掲げるコンセプトは「子供に、生まれ変わる旅。」。
実際に館内を見ていくと、この言葉が単なるキャッチコピーではないことが伝わってくる。客室でゆっくり休むだけでなく、館内を歩き、気になるものを見つけ、触れて、試してみる。そんな小さな発見が用意されているのだ。正直なところ、宿泊前から大きな期待を寄せていたわけではなかった。
だからこそ、館内で次々と見つかる仕掛けや、インテリアの完成度には驚かされた。ホテルの印象は、事前に抱いていた期待を超えることで、より強く記憶に残るのかもしれない。
ホテル概要
<施設情報>
- 施設名: UNTEN INN(ウンテンイン)
- 所在地: 沖縄県名護市大中3-1-5
- 開業日: 2026年3月1日
- 客室数: 21室
- 運営会社: 有限会社E・M・I management & asset investor
- 建物の特徴: 旧運天産婦人科医院の入院病棟を改装し、2・3階を客室、1階を共用空間やカフェとして活用
- 客室: 和のテイストを取り入れた和室・和洋室など。広さは10〜80㎡で、客室タイプによって浴室・トイレの専用・共用が異なる
- 共用空間: 施設全体の70%以上を占め、ラウンジやゲームなど、館内で過ごす時間を楽しむための仕掛けを備える
- 駐車場: 無料駐車場あり
- 公式サイト: https://www.unteninn.com/
- コンセプト: 「子供に、生まれ変わる旅。」
- ※施設情報は公式サイトおよび公開されている施設紹介記事を参照しています。
安くても1泊1.5万円くらいはかかる!

<シミュレーション条件>
人数:大人1人
予約サイト:公式HP
プラン:素泊まり(食事なし)和室M フロアベッド:ダブルサイズ 専用シャワー・トイレ
予約料金:14,800円
第2章 施設の70%以上が共用空間。客室を増やすことが正解なのか?

今回、建築的な視点から特に注目したのが、施設全体における空間の配分だ。UNTEN INNの公式サイトによると、施設の70%以上が共用スペースに充てられているという。
一般的な宿泊施設では、限られた延床面積のなかで客室数や客室面積を確保することが、事業計画上の重要なテーマになる。客室を効率よく配置し、収益を生む面積を確保するという考え方だ。一般的にも、60~70%の有効面積は事業計画上の定石として私は認識している。
もちろん、それ自体が間違っているわけではない。ホテルの事業性を考えるうえで、客室数や稼働率、客室単価は重要な指標である。しかし、UNTEN INNは、共用空間に大きな面積を割くという選択をしている。
それでも、何を削り、何に面積を使うのか。その判断には、ホテルの運営者が何を大切にしているのかが表れる。UNTEN INNの面白さは、この空間配分の考え方にあると感じた。
第2章 車寄せから客室まで。UNTEN INNの空間を歩く
今回の宿泊では、車を降りてからエントランスを通り、客室へ向かうまでの導入路にも注目したい。ホテルの建築やインテリアを考えるうえで、到着時にどのような景色が目に入り、どんな順序で空間を体験するかは重要な要素だ。
車寄せからエントランスへ






まずは、車で到着したときの様子から。接道面からピロティを介して駐車場にアクセスする。この時向かって右側にチェックインの扉が目に入る。車高もギリギリ2.4m程度と、リノベーションを前提とした既存の天高を彷彿とさせる。このホテルは無人チェックイン型として、事前に登録したメールアドレスにパスコードを入力することで初めて館内にアクセスすることが可能となる。
エントランスから館内へ






エントランスを通り、館内へと足を踏み入れる。このホテルには、至る所に個性が出ている。
例えば、自由に遊べるレトロゲーム。昔ながらのゲームに触れられる環境は、目的地へ移動するために泊まるだけではない、館内で過ごす時間の楽しみを生み出している。また、特製のお酒を扱う自動販売機も印象的だった。
客室へ向かう導入路



客室へ向かう途中にも、UNTEN INNらしい空間のつくり込みが見られる。特にリノベーション物件は、従前の空間性やポジティブな特徴を織り交ぜることで、独特の化学反応が生じる。このホテルには、そんな空間を多く散りばめられている。例えば、リノベーション前に使われていたであろう建具を感じる導入部分だ。
第3章 廊下のCDやエレベーターの瓶。館内に散りばめられた遊び心




館内を歩いていて印象に残ったものの一つが、廊下の壁に並ぶCDだ。単なる装飾として展示されているだけではない。気になったCDを選び、客室で聴くことができる。通常、ホテルの廊下は、客室とエレベーターなどをつなぐための移動空間として計画される。避難や動線、清掃性、管理のしやすさなど、機能面が重視される場所だ。しかし、そこにCDが並んでいるだけで、廊下の意味が変わる。通り過ぎるだけだった場所が、立ち止まって眺める場所になる。展示されているものを眺めるだけでなく、気に入ったものを選び、客室で楽しむという行動まで生まれる。
さらに驚いたのが、エレベーターの内部だ。

そこには、小さな瓶が数多く並んでいた。観葉植物の種のようにも見えたが、正確に何が収められているのかは分からない。ただ、一般的なホテルのエレベーターでは、あまり見かけない光景であることは確かだ。
エレベーターは、宿泊者が短時間だけ利用する設備だ。内装の仕上げや照明、鏡などによって印象を整えることはあっても、そこに何かを発見する楽しさまで用意するケースは多くない。
第4章 個性的なのに雑然としていない。ホテルの家具・インテリアとFFEの力

















今回の宿泊で、最も強く印象に残ったのは、客室内外問わず、家具や照明、備品など、一つひとつのアイテムへのこだわりだった。建築やインテリアの分野では、家具・什器・備品をまとめてFFE(Furniture, Fixtures and Equipment)と呼ぶ。




ホテルのFFEは、客室のベッドや椅子、照明、ラウンジの家具、サイン、装飾品など、多岐にわたる。これらは、単に必要なものを購入して配置すればよいというものではない。素材、色、形、質感、使い勝手、価格、メンテナンス性など、さまざまな条件を踏まえて選定する必要がある。UNTEN INNでは、館内のあちこちに個性的なアイテムがある。一つひとつに存在感があり、何となく置かれたものという印象を受けにくい。
ところが、不思議なことに、要素が多いからといって空間全体が雑然としているわけではない。むしろ、全体としてのセンスが成立している。「FFEでホテルの雰囲気はこんなに変わるものなんだ!」宿泊しながら、そう感じた。正直、ここまで個々のアイテムにこだわりを持たせるのは、ある意味で常軌を逸しているとも思った。それでも、単に奇抜なものを集めただけには見えない。これはセンスなのだと思う。個性的な家具やインテリアを選ぶことと、空間全体をまとめることは別の能力だ。目を引くアイテムを導入しても、色や素材、配置のバランスが取れていなければ、空間は散漫になってしまう。






一方で、統一感を意識しすぎると、無難で記憶に残らない空間になることもある。その間にある、個性と調和のバランスをどう成立させるか。UNTEN INNを見ていると、ホテルの印象は建築の形や内装仕上げだけで決まるものではないと改めて感じる。家具や照明、備品の選び方や配置の仕方、そこに込められた意思が、空間全体の魅力を大きく左右している。
おわりに

ホテルの魅力は、必ずしも豪華な客室や大規模な設備だけで決まるわけではない。
共用空間の使い方、家具や備品の選び方、そして宿泊者が何気なく過ごす時間への工夫。そうした要素が重なり合うことで、そのホテルならではの体験が生まれる。UNTEN INNは、個々のアイテムの面白さだけでなく、それらを空間全体として成立させている点が印象的だった。建築やホテルづくりに携わる立場としても、空間配分とFFEの可能性を改めて考えるきっかけになった宿泊体験だった。

